ハウとカイとトロピウスは、そらをとぶ
カイには夢があった。大好きなトロピウスの背に乗って、大空を駆けることだ。
今、それが叶おうとしている。それも夢見ていた時より大きな幸せの形を伴って。
カイのトロピウス、オリーフの背中には、ハウが先にまたがっていた。
「カイ。」
大好きなポケモンの上で待っている、大好きな人。ハウが差し伸べた手をカイは取り、オリーフの背に乗った。
「準備オッケー?」
後ろに腰を落ち着けたカイに、ハウが尋ねる。カイはうんとうなずいた。
オリーフが葉っぱの形をした翼を、大きく広げる。
「よーしそれじゃあ、しゅっぱーつ!」
ハウのかけ声に続いてオリーフが高らかに吠え、ハウとカイとオリーフは、空に向かって飛びだした。
青空に浮かぶ白い雲が、どんどん迫ってくる。
「オリーフ! エアスラッシュだよー!」
戯れにハウが指示を出すと、オリーフは激しい羽ばたきで応えた。渦巻く風の刃が雲を切り裂き、ちりぢりの紙吹雪みたいになってカイたちを包んだ。
「あははー、すごーい!」
歓声をあげる2人に、オリーフも気をよくしたのだろう。誇らしげに鳴いた後、ぐうんとスピードを上げた。思わずカイは「わっ」と小さく声をこぼしてハウにしがみつく。ハウは少し不意を突かれたようだったが、すぐに微笑み、肩越しにカイを見た。
「カイ、怖い?」
ハウの顔を見て、カイも微笑む。そして、ばさばさと暴れる髪に紛れてしまわないようはっきりと、かぶりを振った。
「大丈夫。ハウさんと一緒だから。」
どこまでも広がる青空の色が溶けこんだ互いの瞳を、2人はしばし見つめあった。
それからハウは、前を向いた。
「オリーフ、もっとだよー! もっともっと速く飛ぼう! カイはおれにしっかりくっついててねー!」
オリーフが吠える。カイはぎゅっとハウに抱きつく。ハウは片手でオリーフにつかまり、もう片方をカイの手の上に重ねた。
一緒ならどこまでも行ける。どんなに速く駆けたって、一緒なら怖くない。
同じ想いをそれぞれの胸に抱いて、ハウとカイとトロピウスは、そらをとぶ。