ハウからカイへの返答
リリィタウンじゅうに設置されたかがり火は、いよいよ勢いを増していた。アローラリーグ初代チャンピオンの誕生を祝して、老若男女ポケモン問わず、飲めや歌えの大騒ぎ。
カイが舞台の上に出したポケモンたちは子供らに大人気で、触らせてとか技を見せてとか、あっちこっちで引っ張りだこだった。
カイのジュナイパー、マルクは照れ屋なので、わいわい囲まれても最初は頭の羽をすぼめてじっとしていたが、他のポケモンたちが楽しそうに遊んでいるのを眺めたり、カイになだめられたりしているうちにだんだん慣れてきた。
「マルク、人気者だねー。」
ジュナイパーが子供になでてもらっているのを見守っていたら、ハウがカイの隣にやってきて微笑んだ。
「もうすぐ花火の第2弾を打ち上げるってー。一緒に見ない?」
カイはうなずくと、ポケモンたちをボールに戻した。子供たちはもっと遊びたそうだったが、まもなく花火が上がることを教えてあげると、喜んで家族や友人を誘いに駆けていった。
「おれたちも行こう。いい場所を知ってるんだー。」
そう言って手を引いてくれるハウに、カイも素直に付いていく。
案内された所は町外れの小高い丘だった。にぎやかに焚かれたかがり火の端から端まで一望できる。夜は暗く、少し煙った空気が火の周囲だけほんわりと照らされて、リリィタウン全体がひとときの光の魔法に包まれているようだった。
幻想的な景色を眺めているうちに、ぱん、と軽快な音が空に響いた。
「始まったー!」
打ち上げ花火第2弾は、第1弾に負けず劣らず華やかだった。モンスターボールやポケモンを模したアート花火が夜空を彩った時は、カイもハウも歓声を上げた。
クライマックスは黄色、桃色、赤色、紫色と順番に打ち上げられた花火群だ。島巡りをテーマにした演出だった。人々がわあっと拍手する音がここまで聞こえ、カイたちも手をたたいて感動を空気に乗せた。
「はー! きれいだったなー。」
ハウが満足そうなため息をつく。カイもハウに同意した。
「いい場所を取れて良かったよ。ありがとう、ハウ。」
「どういたしましてー。こちらこそありがとうだよー。カイと見られて良かった。」
花火だけじゃなくてー、とハウは続ける。
「これからもいろんなもの、カイと見られるといいな。」
ふと真剣みを帯びた声音にカイが顔を向けると、ハウの黒い瞳が待ちかまえていた。それは吸いこまれそうなほどに綺麗で、カイは思わず息をのむ。
「カイ」とハウが名を呼んだ。
「おれも、カイとずっと一緒にいたい。」
それは船上でのカイの告白に対する、ハウの返答だった。
カイはハウを見つめ返すので精一杯だった。ポニ島に上陸する直前、一方的に自分の思いを告げた記憶、未知のウルトラホールに飛びこんだ時の不安、無事に戻りハウとの約束を果たせたことへの安堵……それらが一気に押し寄せてきて、何から言葉にすればいいのかわからなかった。
「好きだ、カイ。」
先ほどまで華やいでいた空はすっかり夜に包まれ、そろそろ落ち着き始めた祭り囃子も太鼓の音も遠かった。ハウの言葉がカイの心に染みこみ、ひとつの感情を形作るのを、まるで世界中が時を止めて見守ってくれているようだった。
「嬉しい、です。」
ようやくカイが口にできた返事に、ハウは安心してふにゃっと笑った。
「本当はラナキラマウンテンで言おうと思ってたんだ。ちゃんと強くなったってこと、カイに証明してさー。だけどカイはもっと先に行ってたよね。おれはまだまだカイの隣には立てないなって、あの時はカイがリーグに挑戦するのを見送ることしかできなかった。」
「……今はもう、余裕で隣にいてくれる?」
ハウは頭をかきながら、いやーまだまだ修行が必要だと思うんだけどー、と苦笑した。
「でもそれ以上に、カイと一緒にいたいって気持ちの方が強いよ。こんなおれだけどー、これからもきみの側にいてもいいですか。」
あらためて問うハウとしっかり目を合わせて、カイは大きくうなずいた。
「もちろんです。よろしくお願いします。」
そして2人はどちらからともなく手をつないだ。
花火はもう終わったのだから、そのまま祭りの輪に戻っても良かったのだが、
「…………。」
「…………。」
カイとハウはなんとなく顔を見合わせる。それから同時にはにかんで、絡めた指先にきゅっと力を入れた。どちらも何も言わなかったけど、もう少しここで互いの体温を感じていたいという思いは、言葉にせずとも重なっていた。
時はゆっくりと過ぎていく。2人の前に灯る光はやわらかく、温かく、夜をどこまでも照らしていた。
これが、
そして、