カイのすてきな誕生日
カイとハウは、誕生日ケーキを買いに行くことにした。
今日はカイの誕生日だ。ハウオリシティにあるケーキショップを目指して、ポケモンたちと一緒に、2人は手をつないで道を歩いた。
何を買うかは決めていない。店に着いたら一番美味しそうなのを選ぼうと話していた。だって今日の目的は、ケーキだけじゃないから。共に歩く道のり。ポケモンたちと眺める景色。どの商品にしようかと悩む時間。その全部がカイとハウにとっての特別なバースデープレゼントだった。
ハウオリシティの街道で、チュウチュウと鳴いたのはハウのライチュウだった。
ライチュウが示した先を見て、ハウは「あーっ」と声を上げる。
「あのトレーナーさんもライチュウ連れてる! しかも、チョコレート色のライチュウだよー!」
色違いのライチュウを手持ちポケモンにしていたのは、若い女性のトレーナーだった。
ライチュウたちはお互い違う毛色の相手に興味津々で、あっというまに仲良くなった。ほっぺたの電気袋をすり寄せ、においを嗅ぎあい、楽しそうに鳴き交わす2体の姿は、プレーンパンケーキとチョコパンケーキのダブル盛りプレートみたいだ。
女性トレーナーは長い間パートナーが色違いだと気づいておらず、進化して驚いた時の思い出を語ってくれ、ハウも島巡りでライチュウと一緒にとびきり綺麗な夕焼けを見たことなどを話した。
そうしてみんなで楽しくはしゃいだ後、「あーっ」と声を上げて会話を打ち切ったのはハウだった。
「おれたち大事な買い物の途中だった! もう行かなきゃー。チョコレート色のライチュウのトレーナーさん、いろいろ話聞かせてくれてありがとー!」
ライチュウとトレーナーに手を振って、カイとハウとポケモンたちは、再び目的地に向かって歩き始めた。
ケーキショップに着くと、予想よりずっと美味しそうなスイーツが、ずらりと並んでカイたちを待っていた。
つやつやの蜜がけフルーツがたっぷり乗ったタルト、値札ポップに可愛いミルタンクの絵柄が付いているチーズケーキ、粉糖でポケモンのシルエットが描かれているムース……。
一通りショーケースを眺めた後、カイとハウが視線を向けているのは同じ商品だった。
色違いのライチュウ色の、チョコレートホールケーキ。
「やっぱりカイも、あれがいいと思った?」
「うん。今日にぴったりだなって。」
チョコレートケーキの上にはきれいに絞ったホイップがいくつも乗っていて、それがまたライチュウの手足の模様を連想させた。真っ赤なベリーと、いろんな形がにぎやかなチョコ細工は、クリームの間でうきうき弾んでいるようだ。
今日の思い出をケーキにしたら、きっとこれになるだろうと、カイは直感した。
「おれもおんなじこと考えてたー。決まりだな! すみませーん、このケーキください! ハッピーバースデーのチョコプレートもお願いします。」
そしてカイがなにより嬉しかったのは、ハウも同じ気持ちでいてくれたことだった。
「カイ、ご機嫌だなー。」
ケーキの入った紙袋を提げ、反対の手をカイとつなぎ、ハウが言った。
「えへへー。わかる?」
「顔見ればね。それに、アブリーが寄ってきてるよー。」
見上げると、1体のアブリーがぴゅいと鳴いてカイの頭上にとまった。あら、と手を差しのべるとひらりと離れる。野生の子っぽい。カイたちの幸せオーラを感じて来たのだろう。
「早く帰らないと、もっとアブリーが付いてきちゃうね。パーティの本番はこれからなんだから。」
「そうだなー。留守を頼んだポケモンたちも、待ちくたびれてるだろうし。よーしカイ、競走しよっか!」
「あっ、待って待ってハウさん。ケーキが崩れちゃう。」
カイが慌てて手を引っ張ると、おっとそうだった、とハウははにかんだ。
「じゃあ、大急ぎのゆっくりで行こー。」
「ふふ、なにそれ。」
「おれたちのハッピータイムな速度ってこと!」
つないだ手をぎゅっと握り直したハウに、カイも優しい指先で応え、2人は微笑んだ。
青い空を渡る心地よい風に乗って、アブリーがもう1体、どこからか飛んできた。
さんさん降り注ぐアローラの太陽は、カイとハウとポケモンたちの最高の1日を照らしていた。
戸元うみさん、ありがとうございました!